Der Rosenkavalier

 

突然、リヒャルト・シュトラウスに心酔した。それまで退屈とさえ思っていた旋律が妙に艶っぽく聴こえる。「突然」という語を用いたが、多少の経緯がある。

 

きっかけは、2014年8月放送のクラシック音楽館(アシュケナージN響によるリヒャルトプログラム)である。中プロはフランソワ・ルルーをソリストに迎えたオーボエコンチェルトだった。それまでオーボエコンチェルトはモーツァルトのものしか聴いたことがなかったが、ルルーが紡ぐ旋律の美しさに心を奪われ、この作品に惚れ込んだ。以来、この週のクラシック音楽館を見返すが、いつも中プロのコンチェルトだけを観ていた。

たまには前プロの「ドン・ファン」から聴いてみることにしたところ、妙に耳触りの良い旋律が聴こえた。「ドン・ファン」はこれまでは序奏だけやたらと豪華で勇ましい曲だと思ってたのに。それまで何とも思っていなかった異性に対し、恋に落ちてから見る姿がそれまでとはまるで違うように見えるような、そんな感覚。私はリヒャルトの音楽に心酔した。

 

改めて、他の音源でリヒャルトの作品を色々と聴き漁ってみると、リヒャルトのオーケストレーションの完璧さがよく分かる。各楽器のよく鳴る音域を用いて最大限オケが鳴るように計算され尽くしている。トロンボーンを吹いていたので、全ての楽器が「鳴っている感じ」が堪らない。

そういえば、元在京オケマンの先生から「リヒャルトはオーケストレーションが完璧だから吹いていて気持ちがいい」と友人が聞いたという話を想起した。聴いているだけでも快感に近いのに、演奏したらと想像すればたちまちその話を頷いて聞くしかない。

 

 

 「ドン・ファン」のほかにも『ばらの騎士』にも心を奪われている。特にワルツ。まるで『こうもり』を思わせる高貴なウィーンの香りを纏いつつ、どこかモーリス・ラヴェルの「ラ・ヴァルス」のように色っぽさもある。

小澤征爾が「ワルツがいっぱい出てくるからね(ワルツ大好きなウィーンの人々はこの作品が大好き)」とNHKで語っていたがよく分かる。こんな優雅なワルツ、ウィーンのみならず世界中から愛されるでしょう。

 

ばらの騎士」といえば、カルロス・クライバー指揮の1994年ウィーン公演が名盤。20年以上世界中のあらゆる人を魅了してきている。この先これ以上の名演は生まれないのではないかと思うほど。

 

R.シュトラウス:歌劇「ばらの騎士」 [DVD]

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正直、クライバーの振るシンフォニーは超名盤!と巷で言われる程でない(小声)と思っていたため、クライバーが伝説的指揮者だと言われる所以が正直理解できていなかった。そんな私が、これを観たらクライバーの紡ぐ音楽の美しさにただ平伏すことしか出来なくなった。

どこがどのように美しいか?言語化することさえおこがましいような気がする。兎に角美しいのである。既に50回は聴いているが、聴くたびにあまりの美しさに溜息が漏れる。為す術もなく、ただ平伏すしかない。

老後までクライバーばらの騎士を聴いては美しさの暴力に打ちのめされる予感さえする。そんな人生、悪くない。むしろ大歓迎。