フィラデルフィア管弦楽団来日公演
11月4日、フィラ管来日公演に行きました。ドイツ・オーストリアのオーケストラを偏愛しているオタクなので、アメリカオケの演奏会に赴くのは初めてでした。偏愛オタクである私がなぜフィラ管の演奏会に足を運んだかというと、大好きなヴァイオリニスト、リサ・バティアシュヴィリが来日するからです!
KAJIMOTOが招聘することを発表してからおよそ1年。演奏会当日を心待ちしていました。
出演者とプログラムは以下の通り。
出演者
ソロ ヴァイオリン:リサ・バティアシュヴィリ
指揮:ヤニック・ネぜ・セガン
演目
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲
マチャヴァリアニ:ジョージアの民謡より「Doluni」(アンコール)
感想①:チャイコン
夢見たバティアシュヴィリのご登場。今日この日までこの曲を研究し尽くした結果を見せてもらっているような、そんな演奏だった。第1楽章第一主題は太い音で朗々とたっぷり歌う。音源で見聞きしてきたあのバティアシュヴィリの音がサントリーホールの響きを纏って降り注いだ。
下記部分(第1楽章第二主題かな?)の低音はよく楽器が鳴ること。オケもピアニッシモでテンションを落として、ヴァイオリンを引き立てつつ丁寧な音楽作りが伺えた。
白眉だったのが2楽章第一主題。楽譜上表記はピアノなんだけれどピアニッシシモくらい落として静粛に少しずつ歩みを進めた。ここも朗々とアリアのようだったので『エフゲニー・オネーギン』で似たようなアリアがあったような気がした。気の所為かな。
第一主題展開部(下記部分)は記譜通りフォルテとピアノをやりすぎな位表現を分けていた。こういう箇所一つ取ってもスコア通りに演奏していて、作曲家への敬意と研究の成果が伺える。
第3楽章はアタッカで突入。これまでの朗々とした歌い口とは代わり、硬い音で民族舞踊曲のように軽やかに演奏した。ジョージア出身だけあって民族舞踊のようなリズムの取り方が上手。日本人にはなかなか出来ないよなぁ…。
素晴らしかったのが下記部分。三楽章第二主題かな。この箇所を艷やかに甘く歌うのがたまらなかった。これを聴きたかったのよ。前の硬い音とのギャップも相まって感動倍増。緩急に付いて行くネぜセガンとオケも素晴らしい。
バレンボイムとSKBとの同曲を聴きながら演奏会に向かったんだけど、こちらと比較しても圧倒的に今日の演奏の方が事細かに研究されていた。CD発売から3年経て更に深みを増していく探究心の強さ。本場ドイツで引っ張りだこになるというのは技術のみならず飽くなき探究心がないといけないんだと痛感。ドイツ音楽界の深淵を見た気がした。
演奏者本人の希望によりプロコのコンチェルトからチャイコに変更したのも頷ける。これだけ研究すれば演奏したくもなるわ。
感想②:マラ5
アメリカンなマラ5だった。ドイツ語圏のオーケストラがマーラーを演奏すると神々の世界や自分の内面に放り込まれる感覚に陥るけど、アメリカ圏はそれがない。あくまでリアリティ。あるのはいま流れている音楽で、それ以上でもそれ以下でもない。どちらが良いとか悪いとかではなく、ドイツ的アプローチ、アメリカ的アプローチのいずれも合致するマーラーの作品の懐の深さに感服した。
マラ5でフィラ管のトロンボーン隊を聴いて、私がトロンボーンを吹いていた頃はアメリカのサウンドを目指していたことを思い出した。
アメリカらしいカラッと明るい音に加えどんなときでもキマる和声の美しさ…フィラ管のトロンボーン隊こそ私がやりたかった演奏だった。今後マラ5演奏するかもしれない日のためにトロンボーンばかり聴いた。もし彼らと共に吹くなら…と想像しながら聴くと、とんでもなく気持ちがいい。久々に楽器を吹く快感を思い出せた気がする。
1楽章冒頭のTpソロや3楽章冒頭のホルンが外していてがっくりだったけど、トロンボーン隊が見事だったので全体的な満足度はなかなか。安定感ばっちりの低弦もよかった。
全体的な構成は、2楽章と5楽章をアタッカで入っていたので3部構成にしたかったように伺えた(1,2楽章、3楽章、4,5楽章)。1,2楽章はまだしも、4,5楽章は一息欲しかったな。アダージェットの余韻を少し感じたかった。
サイン会
物販購入者はもれなくサイン会に参加できたので参加してきた。まぁサイン会が催されなくても出待ちする気満々だったんだけど!
せっかくならセルフィー撮りたいと思ってなるべく最後の方に並んだら1時間以上待った。どこぞの人気アイドルの握手会かっ。サントリーホール担当者が写真撮影NGと言うので泣く泣くやめ、CDにのみサインしてもらった。
サインしてもらったCDは下記。ソロこそバティアシュヴィリだけど、指揮はティーレマンという失礼極まりない私(だってこのCD大のお気に入りなんですもの!)。
サイン直前になってホール担当者にCDを手渡したら「これネぜセガンさんじゃないですけど…」と怪訝な表情されたつ拒まれそうになったけどオタクパワーで押し切った。厄介でごめんなさいね。
ネぜセガンに「あなたのCDじゃなくてごめんなさい!」と手渡したら、「いいよいいよ!ティーレマンの上にサインしてあげる!」とノリノリで書いてくれた。い、いい人…!!! 本当にChristian Thielemannの字の上にサインしてくれた。それもニコちゃんとハート付き。爆笑した。
そんなネぜセガンのノリノリ対応を見たバティアシュヴィリは、もうっ!って言いながら擦って消す仕草をしてくれた。「このCDの3つのロマンス、すごく好きです!」と言ったつもりが聞こえなかったのか伝わらなかったのか、返答なし…。でもすごく楽しい時間でした。目を見て感謝の意を伝えられて良かった。
このサイン入りCDは一生の宝物。
怒涛の来日公演シーズン第1弾でした。
しばらくバティアシュヴィリの演奏を反芻する日々が続きそう。