【BSO来日2018】タンホイザー

 

過ぎる9月21日、バイエルン国立歌劇場 来日公演『タンホイザー』を観た。

 

指揮はキリル・ペトレンコ。実際に彼のタクトを観ると、卓越したバトンテクニックと耳の良さに圧倒された。兎角凄い。 オケに対するアプローチはDCH(ベルリンフィル デジタルコンサートホール)で見たそれと余り遜色なかったが、合唱やソリストに対するものは、打点をはっきりとさせない合唱指揮のようなものであった。これらどちらも出来る器用さに驚かされた。

かのヘルベルト・フォン・カラヤン小澤征爾に対して、「オペラとオケは車の両輪のようなもので、指揮者はどちらも振ることが出来なければならない」と言ったそうだが、確かにペトレンコを見ているとよく分かる。オペラの奥深さを思い知らされた。

 

タイトルロールは、クラウス・フローリアン・フォークト。

フォークトは2016年新国立劇場での『ローエングリン』にてタイトルロールを見事に歌い上げたのが記憶に新しく、タンホイザーは今回が初めてということも事前に耳に入っており、是非とも見届けたかった。

フォークトといえば過剰なほどに甘い声が持ち味。それが白鳥の騎士では良く活かされていたが、翻弄される吟遊詩人ではどのように活きるのか気になっていた。

彼の甘い声は1幕終盤、エリーザベトを想起するシーンにてその持ち味が活かされた。「エリーザベト」とただ名前を声にするだけなのに。あまりの甘ったるさに、こちらはとろけそうになった。

 

 

さらに切れ味のある表現も持ち合わせていた。3幕、タンホイザーがヴォルフラムに対しローマ巡礼の顛末を話す場面。

この赦しをもらえなかったことを告げるシーンは甘さとは全く別物。身を引き裂かれる如く辛い心境が此方まで伝わってきた。 当初の心配はまるで必要がないほど、幅広い表現を見せてくれた。

そして、何よりも声量が圧倒的。3,600席あまりのNHKホールの隅々までその美声を響き渡らせていた。これはどの出演者よりも圧倒的であった。

前回以上に魅了されてしまったフォークト。益々目が離せない。

 

他にも魅力的な出演者ばかりであったが、あまりに長くなりすぎるので割愛させていただく。

ヴェーヌス扮するエレーナ・パンクラトヴァや、ヴォルフラム扮するマティアス・ゲルネが特段良かった。

 

 

これほど良い舞台はきっと初めて。チケットが高額なので購入に躊躇われたが、行って良かった。

 

*1