ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 来日公演2019

11月15日、ウィーンフィルの来日公演に足を運んだ。今年2019年はオーストリアと日本の国交樹立150周年なのでその記念事業の一つでもあったのか、去年に引き続き1年ぶりの来日公演だった。

 

ティーレマン率いるウィーンフィルによるリヒャルトプロと見て最高の演奏会になる予想が的中した。ウィーンフィルにしか出せない芳醇なウィーンの薫りを纏った正統派な演奏。音楽に薫りなんてないだろうと指摘されそうだけれど、あの場に遭遇していないと分からないであろう「薫り」のようなものがそこにあった。

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出演

指揮:クリスティアンティーレマン

管弦楽ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

 

演目

リヒャルト・シュトラウス交響詩ドン・ファン

リヒャルト・シュトラウス:「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」

ヨハン・シュトラウスⅡ世:『ジプシー男爵』序曲

ヨーゼフ・シュトラウス:ワルツ「神秘な魅力(ディナミーデン)」

リヒャルト・シュトラウス:オペラ『ばらの騎士組曲

(アンコール)エドゥアルド・シュトラウスポルカ「速達郵便」

 

 

 

 

ドン・ファン

私はこの曲をベルリンフィルの演奏(ペトレンコ監督就任やカラヤン来日大阪公演)を聴くことが多いので、対比効果によってなのか、オーセンティックな解釈だと感じた。

白眉だったのがOB首席・ホーラックによる中間部のソロ。ただでさえもブレスが取りにくい旋律であるのに加え、ティーレマンの長いフレーズ感で相当キツかっただろうにもかかわらず見事完璧に吹ききった。音程もお手本のごとくぴったりだった。そしてソロを引き立てる弦のハーモニーも美しいこと。どんな箇所でもウィーンフィルはアンサンブルが卓越しているんだけど、オーボエソロの場面での弦のハーモニーは特に感動した。

 

 

 

ティル

ドン・ファンに比べてティルは予習が足りてなかったことで、逆に演奏を純粋に楽しむことができた。予習しないと良さを気づけないし、かと言って予習しすぎると演奏が体に染み付いて比較することでしか演奏を楽しめなくなってしまうし、予習の加減って難しい。

 

純粋に楽しめたティルでは、管楽器の首席を中心にプレイヤーたちの卓越したテクニックとウィーンフィル全体のハーモニーとどちらも味わえたったのか。

先ずは冒頭からソロのホルン。どなただったか分からなだけど、ホルン首席がとんでもなく上手い!高音から低音まで同じクオリティで外さず、音程も完璧ですべてこなした。あれだけ難しいソロを吹くだけでもすごいのに…すごすぎる…。 どなたっだったのか分からず悔しい。

 

中間部のポルカ風の箇所(下記部分)が軽快でありながらウィーンの薫りを漂わせるので、ヨハン・シュトラウスポルカに変わったのかと錯覚した。これはウィーンフィルにしかできない演奏だった。思わずこの曲をウィーンフィルで聴ける幸せを噛み締めた。

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このすぐ後に金管中低音の重厚なファンファーレに切り替わって。リヒャルトらしい、ティーレマンらしい演奏に戻った。トロンボーンの音程があまりにいいのでa3なのに一本で吹いているようだった。ウィーンフィル金管って何となく控えめな印象を抱きがちなんだけど、全くそんなことないのね。勿論アンサンブルに回る箇所では木管・弦と調和するけど鳴らすべき箇所では鳴らしていた。

Vnソロをつとめたコンマスも上手い。(キュッヒルじゃなくて残念……)なんて思う間もなしに圧倒的な技術を前に平伏せた。

 

 

ジプシー男爵

当初は「こうもり」の予定だったところ変更になった。ウィーンフィルさまによるウィンナに文句をつけられるはずがあるわけない。無論上手かった。奇しくも今年のニューイヤーの指揮者が振っていることもあり、なんとなくニューイヤー気分を味わえた。

前プロでリヒャルト漬けにされて緩徐楽章的位置づけにはぴったりだった。

 

 

 

ディナミーデン

こちらも初めて聞くワルツ。第1ワルツを聴いて聞き覚えがあるよう気がしたと思えば、『ばらの騎士』のワルツのパロディと思わせるほど似たフレーズだった。終演後調べてみたら、多くの音楽学者がリヒャルトがこのディナミーデンに影響を受けてばら騎士のワルツを制作したと指摘していることが分かった。そりゃあこれだけ似てればみんなで指摘するよね…。

 

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第1ワルツ。めちゃくちゃ似てる。

 

プログラム考案者(ティーレマンかな?)はディナミーデンが似ていることを分かっていて、わざと前に持ってきたとしか思えないプログラムだった。そんな組み合わせ、はっとさせられるに決まってるじゃないの。策略にまんまとひっかかるオタクこと私。

 

 

 

 

 

ばらの騎士

真打ち登場。正直に申し上げて、あまりに良すぎてどこが良かっただとかそんなことを指摘できない。

ばら騎士にハマってから今まで聴いてきたクライバー(1994)の演奏もティーレマン(2001)の演奏もどちらもウィーンの演奏なので、これまで音源で聴いていた音楽が目の前から降ってくるのに対して感動しすぎて啜り泣きそうになった。さすがにイタすぎるので我慢したけど。(終演後、Twitter見たら多くの人が涙しそうになったとTweetしてて、私だけじゃないことが分かってほっとした)

 

本編で言うところの序曲が劇的でこれからオペラが始まるんじゃないかと胸が高まった。というか、続けざまに本編見たくなった。あのまま演奏会形式で構わないからオペラ本編に進んでくれたらよかったのに()

本当にどこも良かったけれど、Tempo di Valseになってから歌詞が聞こえるようなフレージングが心地よかった。オックス男爵の色めきたっている姿がまるで見えるよう。さすがオペラ指揮者に座付きオケさま。やはりオペラは組曲形式で演奏しようと、中身を理解して歌詞が聞こえるような演奏が理想だわ。

 

 

 

 

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アンコールは「速達郵便」。せっかちなティーレマンがリードしてさらーっと演奏された。私はばら騎士が感動しきってぽーっとしているうちに終わってしまった。

 

 

ああ良かった、生きててよかった、日々せっせと働いてきてよかった。あんな演奏に出会えて幸せ。

 

大好きなリヒャルトをいつか生オケで聴きたいと思っていた矢先にウィーンフィルで聴いてしまったので、他のオケではもう聞けないのではないかと思うと、贅沢なことをしてしまったなとは思う。けど、こればかりは仕方ない。

これまで以上にリヒャルトを好きになった。バレエに現抜かしていたけど、オケ・オペラに照準を戻してばら騎士の研究にあたろうかしら。2021年にWien Staatsoperがフィリップ・ジョルダンと共にばら騎士をお引越し公演するそうなので、それまでに理解が進めておきたいな。

 

 

本当に素晴らしい演奏会でした。

 

 

 

ウィーンフィル来日公演2018の感想

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