オペラ玉手箱Vol.1 魔笛

9月10日に新国立劇場で行われた「大野和士のオペラ玉手箱 with Singers Vol.1『魔笛』」に足を運び、今シーズンより音楽監督に就任した大野和士みずから解説してもらってきました。

 

モーツァルトトロンボーンをほとんど使われないため、つい最近まで食わず嫌いをしており魔笛も敬遠しがちでした。だけど、リヒャルト・シュトラウスが『ばらの騎士』を制作する際にモーツァルトオペラを目指したと見れば、「教養」として知っていてもいいかなと思い直すように。魔笛は例外的にトロンボーンが使われているし。

ラトルが「ストラヴィンスキーハイドンから多くのことを学んだように、ハイドンストラヴィンスキーから多くのことを学んだ」と言うし、後期ドイツオペラばかり偏食しているばかりでなく、古典を知っていたほうがより多角的に楽しめるでしょう。

  

当日の様子はダイジェスト版が新国立劇場公式Youtubeチャンネルに上げられているので、メモ書き程度に特に関心を持ったことを書きます。

 

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「3」というキーワード

魔笛は3音、3人、3個など、「3」がキーとなっている。

大野曰くモーツァルトが所属していたウィーンのフリーメイソンに関係しているという。そのフリーメイソンでは、<古代神殿を建てる際、腕利きの職人だけが神殿を建てられたため周囲に反感を買い、南の門で石鎚、東の門で定規、西の門でコンパスで撲殺された>という話が残っており、そこからクリスチャンが十字架を切るようにフリーメイソンも身体の左右上に手をやって三角を作るようにして信仰していた。そこから転じて、フリーメイソンは3回ドアを叩くなど、「3」という数字を大切にするようになった。

モーツァルトはその影響を受け、序曲の冒頭のコードを3回入れたり、侍女や童子は3人としたり、魔笛の中で鍵となるアイテム(笛、マジックフルート、グロッケンシュピール)も3つ出したという。

 

これを聞いて、3がキーとなることは魔笛に限らずクラシックは多いことに気付いた。ヴェルディ運命の力」序曲も、魔笛同様、印象的な金管のコードから始まるが、やはり3つずつのコードから始まる。

 

 

斬新な転調

有名な「夜の女王のアリア」からザラストロのアリアの箇所。

夜の女王のアリアはd-mollであるのに対し、ザラストロのアリアはd-mollとまるで無関係のE-durになる。d-mollからdurに転調するならば、普通B-durやEs-dur、As-durに行きたくなるところ、天才モーツァルトはそうしない。

この斬新さは、ベートーヴェンのピアノコンチェルト3番でも同様のことが見られる。c-mollの1楽章から2楽章で突然E-durとなる。この斬新さが観客に驚きをもたらし、飽きさせないように作用しているのかと膝を打った。

 

 

迅速な展開

フィナーレの女王と侍女が地獄に落ちる場面から次の場面への移り変わり。

ここはたった3小説で地獄から天国にのぼるという天才モーツァルトの手腕が発揮されている。cis-mollの地獄からB-durの天国まで、まるで星屑がちらちら舞い落ちていくように移り変わる。他の人なら30小節かけていてもおかしくないところ、たった3小節で、美しく変わる。これは見事。

マーラーも弟子のワルターに「たった3小節のみで天国に連れて行く」と絶賛していたんだとか。

 

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以上、3つだけ絞って書きました。魔笛というとどうしてものだめアンコール編のストーリーが脳裏をよぎってしまう。

 

大野さんのお話は面白いし分かりやすく噛み砕いて説明してもらえた。でも、だから言って内容が薄いわけでなくて、資料に基づいたエピソードや調性の話など深く聞けた。優待メンバーに登録すると無料で見られるし、会場に足を運んだ人限定で先行優待発売もあるという至れり尽くせりっぷり。25歳以下、特に大学生には一度行ってみてほしいイベントでした。